朝5時、下のベッドからゴソゴソと音がするので、もうすぐドーイクンターン国立公園駅に着くのでしょう。上段のベッドには窓がないので、外の様子がわかりません。多分、まだ外は暗いのだと思います。もう一度目を閉じて、そっと下からの音を気にしていると、いつの間にか寝てしまいました。駅に着いたら「がんばって。」とあいさつをしようと思っていたのに、気づいた時には下は蛻の殻でした。朝7:15がチェンマイ駅の到着予定時刻なので、あと2時間です。完全に目が覚めたので、ベッドを椅子の状態に変えてもらい、ゆっくりと車窓を楽しむことにしました。小腹がすいたので、だんだん上ってくる朝日を見ながら、昨夜のサンドウィッチの残りを水で流し込み、おもむろにKindle(電子ブック)を取り出し、村上春樹ではなくDr. STONEを読み始めました。もちろんマンガです。最近、老眼がひどく車内などの暗がりで読む文庫本などはほぼ文字を識別できない状態なので、電子ブックの文字を最大にして読んでいます。文字が大きいという事はページをたくさんめくらないといけなくなり、1冊読み終わるまでに相当時間がかかりますが…。
定刻の7時15分、列車はチェンマイ駅に到着しました。まさか、タイの列車が予定通りに着くなんて。お迎えの時間を9時から10時と伝えたことを少し後悔しました。駅構内の食堂でゆっくりと朝食を食べていると、突然、周りの人たちが立ち止まりました。毎日、朝8時と夕方6時の国歌の時間です。僕たち日本人も敬意を払うためゆっくりと立ちます。公共の場所では、この決まりが今でも生きています。もちろん運転中などは無理ですが、街中を歩いているときは大抵の人が起立の姿勢で国歌が終わるまで待ちます。歌が終わると人々が動き出す様が最高にシュールで好きです。朝食を食べ終わってもまだ時間を持て余したので、外のカフェでアイスラテを注文しました。もちろんいつお迎えが来てもいいようにテイクアウトスタイルです。9時になってようやくお迎えが来ました。いつものクッゲンです。ですが今日はシンガポール人の彼女を助手席に乗せていました。この子ともチェンマイに来るたびに何度かあっているので、すでに顔見知りです。シンガポールも旅行が解禁され、タイとも自由に往来ができるようになったそうです。久しぶりの彼女との再会を邪魔してごめんなさい。
カサロンの家へ行く前に、飲料水やちょっとした食べもの、シャンプーや石鹸などを買うためにコンビニエンスストアに寄りました。そこでシンガポール人の彼女が、クッゲンのためにコカ・コーラを買おうとしたので、Iさんの持っていた買い物カゴにそっと入れておきました。カサロンの家に到着し、新築の建物の前に車が止まりました。Iさんは1階のVIPルームに、僕は2階の図書室にそれぞれ寝ることになりました。この建物は、2021年に完成し、キャンヘルプタイランドも2階の内装工事費用として約50万円を支援しました。完成状態を見るのは初めてですが、すごく快適そうで、1階はゲストルームと女の子の部屋、2階は図書室や学習室として使える大広間となっています。2005年に土の家(手作りレンガの家)1棟からスタートした「カサロンの家」が今では、食堂も合わせると建物だけで6棟、鶏小屋兼豚小屋、牛小屋、井戸水施設など、たった20年弱でかなり進化しました。子ども達は入れ代わり立ち代わりですが、歴史を刻むという事は本当に素晴らしいことです。
10時少し前に「カサロンの家」に到着したのに、10時過ぎには、「希望の家」の方へ行くことになりました。「カサロンの家」は、キャンヘルプタイランドが2005年に建設しYouth Charity Foundation(YCF)が運営する山岳部に暮らす少数民族の子ども達のための学生寮で、「希望の家」は2000年頃に、当時金沢大学の教授だった大森絹子さんとYCF代表のタッサニーさんが開設したエイズ孤児のための孤児院です。大森さんは、志半ばにして肺がんで亡くなられてしまいましたが、その意志を受け継いだタッサニーさんが一人で両施設合わせて約40名の子ども達の面倒をみてきました。「希望の家」の内容は、「スマイル」(高木智彦著)に詳しく書いてありますので興味のある人はぜひそちらをご一読ください。
「カサロンの家」と「希望の家」は姉妹寮なので、距離的にはそんなに遠くありません。チェンマイ県ドイサケット郡の田舎道をくねくねと2㎞ほど走ると到着します。「この道が一番好き」とIさんが言っていました。「希望の家」に到着すると、子ども達は田植えの真っ最中でした。ようやく雨が降り、用水路に水が来たので、このタイミングを逃さないように、人海戦術で一気に行います。「カサロンの家」で苗を作り、それを小さな子ども達が1本1本手で抜いてひとまとまりにし、それを「希望の家」の裏にある田んぼまで運び、比較的大きな子たちが2~3本をまとめて手で植えていきます。「田植え機を使えばすぐに済むじゃん。」というご指摘もありますが、これにも教育的な要素があります。5月に一人2~3本の苗を植えて10月に一株か二株を鎌で収穫し、その後に大きなおにぎりを食べる日本風の田植え体験とは違い、まさに本物の授業ですが、子ども達は特に嫌がることもなく和気あいあいと作業をしています。僕も、見ているだけでは申し訳ないので、ほんの少しだけ田植えを手伝いました。Iさんは、見ているだけでは申し訳ないのでと大量のジュースの差し入れをしてくれました。できる人ができることをするのがボランティアです。
明日はいよいよ、今回の渡航の2番目の目的、「名古屋の高校生とカサロンの家・希望の家の高校生とのオンライン交流」本番です。事前に連絡してあったので、ちゃんとこちらの学生たちも心の準備ができているのかと思って、夜にカサロンの高校生に確認してみたら初めて聞くような顔をしていてちょっと焦りましたが、まぁ、想定内なので、明日全力で準備します。
つづく
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